令和4年度病院設立73周年に寄せて~コロナ禍、職員を称える 2022.10.1

 

コロナ禍中での3回目の設立記念日になった。

当院においても多分にもれず、家庭内での感染あるいは濃厚接触者となった職員は何人もいるが、職員同士や入院患者さんへの院内感染は起きていない。感染対策が出来ない施設として精神科病院が名指しされ、なぜかクラスター経験の苦労話ばかりがもてはやされる中で、本当に評価されるべきは「クラスターを起こさず診療機能を維持している病院」のはずだ。スポットライトが当たらない分、ここに当院の新型コロナ対策が奏功している要因を挙げながら、当院の職員の頑張りをしっかりと称えたいと思う。

当院の感染対策の基本姿勢は、細かなルールで縛ったりマニュアルに頼るのではなく、各自が知識をアップデートしながら自身で責任を持って判断と行動をすることだ。職員へのメッセージは現在は次の2点に絞られている。

1 明日、自分の陽性が判明したとしても、同僚や患者さんに感染をさせない今日の過ごし方を心がける

2 体調不良や感染リスクを自覚したら躊躇なく待機する、その行動は「特別休暇」として評価するので臆さずに連絡をする

こういった個々の意識を高く持つことと同時に、自宅待機者を責めずにお互い支え合おうという空気が醸成できたのは、たくさんの迷いや苦労を積み重ねた末の成果だろう。

2020年、当初から県の要請に応じて施設入所中の濃厚接触者や陽性者を受け入れた体験は大きかった。4月にはゾーニングやPPEを早くから経験し、PCRを自院の判断で行って迅速に結果を得るルートも確立できた。同年秋、病棟スタッフの一人の感染が判明した際には、病棟のロックダウンも最少期間経験した。「感染~感染疑い」者が出た際のスクリーニングや動線分けを実際に試行錯誤しながら乗り切ったことは、それ以降の各部署における的確な初動を考える貴重な実体験となった。またこの時、感染者を責めることなく、病院全体が当該病棟を労う雰囲気に包まれたことも大きな財産になったと思う。

その後、感染各波を経るごとに、同居家族を発端とした職員の陽性や濃厚接触判定は増加していったものの、早めの自己申告を受けての検査実施、検査結果が出るまでの情報収集、必要な者の待機指示や患者さんのゾーニングなどは、全体で妥当性の検討を繰り返すことにより考え方が浸透して個別の指示がなくとも各部署が速やかに動けるようになっていった。受け身ではなく「感染対策の主役は一人一人の職員である」という個々の意識のおかげで、結果として患者さんと病院機能を守ることにつながっている。

感染者や濃厚接触患者を外部から受け入れることには当時、「コロナを診る病院」という風評を恐れた異論もいくつかあったが、結果的には正しい選択であったことは間違いない。快く受け入れてくれた看護部に感謝する。外来を含め、いつも最前線で汗をかいてくれているのは看護部だ。

PCR検査のルートの確保、的確な情報収集や外部機関との連携、環境消毒の実際は事務部が担っている。これまでにない臨床的な業務への関わりで戸惑いも大きかっただろうが、日々の受付での水際対策に加えて、緊急時には休日や夜間にも駆けつけて助けてくれる姿勢には頭が下がる。

早くから「新型コロナニュース」を定期発行して、フェイク情報の否定や正しい恐れ方と対応方法を広めてくれたのは診療部である。日々の入院者のスクリーニングを厳密に実践しながら、流行株に応じた感染予防対策と治療に関する情報を逐次アップデートして院内に啓蒙してくれているリーダシップは大変心強い。工夫しながら外来や入院の診療機能の制限を最小限に留めてくれているおかげで病院は維持できている。

その意義を理解して自宅待機者の「特別有給休暇」を認めてくれた法人の功績も大きい。経営的なマイナスのために二の足を踏む病院が多い中、職員を信じて守る姿勢を示してくれた。躊躇せずに不調を自己申告してくれたことで救われたケースは数多くあった。

こうした全体で力を合わせている実感が、一人一人の意識を高めているのだと思う。幾多のニアミスを体験して肌で感じた緊張感は、他部署で同じことが起きた時の思いやりや労いに変わったはずだ。欠勤者を責めることなく、業務のしわ寄せも相身互いと受け容れられるのも、お互いの苦労を理解し合えているからだろう。プライベートも含めて、各自が自己管理と一歩先を読んだ行動を考えることができるようになったのは、コロナ禍が育んだ医療従事者としてのプロ意識もあるのかもしれない。この2年半、こうして振り返れば満更失うものばかりでもなかったようで、感染対策以外の面にも生かして病院の成長につなげられるといい。

まあ、こんな自画自賛をしてしまうとすぐに痛いシッペ返しを喰らいそうな不安もあるが、少なくともここまで持ちこたえているのは事実であり、奮戦記として職員全員への感謝と称賛とともにここに残す。今日も黙食・個食で昼休みを過ごしている職員を見ていて何だか切なくなったのだが、来年中には出口が見えるはずだ、これからも一丸となって乗り切ろう。頑張ろう。