「病院が目指している方向性」

今日は66回目の病院の設立記念式典です。昨年の式典では、昭和24年に病院が設立された時代背景を紹介して、先輩達の崇高な理念を引き継いでいかなければならない、という歴史の話をしましたので、今日は近い未来の、病院が目指している方向性についてお話しようと思います。

ハンセン氏病とよく似た構図の「隔離政策」とも言える国の方針のため、35万床にも膨れあがったわが国の精神科病床は、その数の多さゆえに一般の医療とは一線が引かれ、「精神科特例」といういびつな制度によって低コストにコントロールされてきました。すなわち、他科と比べて医師や看護師の必要人数、入院料・技術料・検査料などが何分の一に低く抑えられた引き換えに、治療が一段落した患者さん達を大規模に長期間入院させておくことが黙認することで経営を成り立たせてきたわけです。

その後、時代は移り変わって現在は、「人権尊重」と「医療費削減」のスローガンの下で早期退院と病床削減が叫ばれるようになりました。近い将来には、原則一年以上の入院は認められなくなる制度も開始されようとしています。また同時に、「心のケア」の重要性が広く浸透するに伴って、子どもから高齢者、家庭・学校・職場まで幅広く、精神科病院は地域のメンタルヘルス全般のケアの担い手へと機能を変えていくことが求められています。この流れに異論はありませんが、病院以外の地域の支援者や受け皿の不足と、病院の低コスト体質には手が付けられずに地域移行だけが進められようとしているところに、「やるべき仕事は増えているのに収入は減っていく」という、入院規模のみに依存してきた精神科病院の経営面の苦境があるのです。

しかし嘆いてばかりはいられません。国の移行措置や経済的誘導を待つべきかどうか迷うところですが、在院患者数の減少と、この地域の急激な高齢化・人口減少や働き手の不足は急速で深刻です。また、昨年お話した病院の設立理念に照らし合わせれば、我が身を削ってでもこの地域で必要とされる病院の姿への方向に舵を切るべきではないかと思っています。具体的には重点項目として、

○病棟の規模や機能の見直し

○地域の患者さんへの緊急対応

○地域ケア支援、特にアウトリーチ活動の活性化

○依存症への対応

○認知症のBPSDの入院治療

○高齢患者さんの身体合併症治療

を挙げておきます。お気づきのように、どれも既に着手しているものばかりですが、従来の感覚から抜け出せない人も少なくないためか、その必要性や危機感について病院全体で共有されてはいないのが現状ですので、これらの項目に注力するための人員配置・職員数の見直しなど、厳しい現実が待ち構えていることも合わせて改めて強調しておきたいと思います。力を合わせてこの病院の転換期を乗り切っていきましょう。

以上、病院の進む次の一歩の方向をお示しして、66回目の設立記念日にあたって職員の皆さんへのメッセージとしたいと思います。                                       2015.10.1