令和4年度の病院目標 ~視野を拡げる~

R4.2月 病院長

ただでさえコロナ禍で鬱屈とした日々なのに、病院や精神科医療には余計なストレスがかかり続けている。

神戸の病院の虐待事件。時代錯誤で言語道断なのは間違いないが、これが精神科病院の現状だと報道された。いつもながら先入観に満ちた十把一絡げな扱いには腹が立つ。北陸での身体拘束が違法とされた判決。「多人数で抑え込まなければ治療ができない」状況に対して「多人数で抑え込めれるのなら拘束は不要」との判決が確定してしまった。どこまで現場を知らないのだ。安全地帯から精神科病院を攻撃する、ある種の人たちがこの判決で勢いづいているのも気が重い。

行政の医療へのコロナ対応。精神科はいつでも後回しだ。当院は他施設の濃厚接触者も感染者も受け入れてきたのに、コロナどころか熱発者さえ診ない医療機関のワクチンが優先されて、当院は福祉施設ランクの扱いだ。おかげ第6波真っ只中の今、ようやく職員の3回目接種中という始末。それでいてクラスターが発生すると、精神科入院患者はあからさまに治療を拒否され見捨てられるという事案が全国で続出している。結果、お役所から「感染対策ができない危険な施設」としての注意喚起のお触れ書を毎月頂戴する羽目になる。通達くれるより助けをくれ。普段の人権を笠に着た指導はどこへ行ったのだ。

今に始まった事ではないが、世間や行政、時には他科の医療機関からの風当たりが、非常事態になればなるほど露骨に強まっている。結局、多様性だの地域移行だのは平時の戯言に過ぎないのかとガッカリする。

ただ、対岸に立って考えてみれば、無理からぬと思えることも見えてくる。私たちは内側に篭り過ぎて、広く発信することや理解を求めることを怠ってきた。「自分達だけが分かっている」という旧態依然の村意識は、外部からはひどく歪んで見えることもあるだろう。患者さんの味方のつもりで傷つけたり足を引っ張っていることにも鈍感だ。案外、外側からの評価の方が、患者さんや世間の本音に近かったりする。時代に遅れ、感覚がずれてしまっていることを修正すべきは自分たちの方かもしれない。

視野を拡げなければならない。

おそらくあるべき真実は、内側にいる私達よりは外に在る。相容れない考えの人、反対の考えを切り捨てるのではなく、その立場で我が身を振り返らないと正しさは見えてこない。そもそも我々はアップデートできているだろうか。薬物以外でも精神科の治療技法は目覚ましく進歩しているのに、身につけて実践できているのはごく一部ではないか。それでは「精一杯やっています」と患者さんに説明できない。乗り越えるべき壁は内側にあるのだ。

そこで、今年度の病院目標は「視野を拡げる」とした。鬱屈した日々だからこそ、守りに入らずに新しいことを学んでみよう。外側から自分たちの病院を見てみよう。逆風はこれからも一層強く吹いてくる。その理由を知ろうとすることこそが、課題を見出すこと、思いやりや寛容、そして向上心の源になってあるべき姿を見つける近道になる。つまり私達の病院を正しく成長させる道であると思うのだ。各々の部署や個人の目標に落とし込んで考えて欲しい。