令和2年度病院設立71周年に寄せて 2020.10.1

コロナ禍に巻き込まれているうちに、気がつくともう71回目の創立記念日になっていました。昨年の70周年記念式典がつい先日のようでもあり、はるか遠い過去のことのような隔世の感もあります。例年ならば当たり前に迎えてきたこの区切りの日も、今年は無事にたどり着けたという感慨が深い日となりそうです。

どの医療機関も同じでしょうが、今年の3月以降は感染対策に追われ続け、目の前のこなすべき課題は次々と見えるのに、その先は全く見通しが持てないという不安な日々を積み重ねており、専門外の慣れぬ仕事も多くてかなり消耗しました。気苦労の多くは、「病院の診療機能と職員の生活を守る」ことと「感染から患者さんと職員を守る」ための措置の対立から生じていて、どちらも一歩間違えばクラスター発生という悪夢に苛まれながらの舵取りとなっています。

また、時々刻々と変化する最新情報に加えて、職員個々の立場の違いや温度差、理念と感情論が混在する中では、バランスをとった決定をしたつもりでも、不満やストレスを抱えたままの職員を常に生むことになります。率先して感染と戦うほどに不評も買ってしまうやりきれなさは重苦しく、病院全体が足並みを揃えて一丸となることの難しさにも直面しました。

いつ終わるのかも分からない、明快な解決方法や全員が納得できる回答がない課題を抱えた場合に、組織としてはどのように持ちこたえるべきなのでしょう。

大切なのは「共感」の力です。普段は気付いていなかった様々な立場からの本音や意見が、この切迫した事態になってから赤裸々に語られるようになっています。たとえ自分の感覚と相容れなくとも排斥せず、異論を理解しようとする共感の姿勢こそが精神科医療の本分であり、そこにある寛容さや優しさは私たちの武器のはずです。

そして「成長」への意識も欠かせません。答えの出せない事態に直面しても、拙速な結論に走ることなく立ち止まって視野を拡げてみること、試行錯誤を厭わず行動を起こしてみることによって得られる体験は、必ず私たちを次のステージに導いてくれるはずです。その回り道を批判するのではなく、共感力を持ち寄ってお互いの成長のプロセスと捉える機運こそが、現在まさに病院に求められているのではないでしょうか。

そうやって暗中模索の中でも踏ん張り続けることで、病院全体に生まれてくる緩やかな連帯感がコロナ禍に耐えるパワーの源になってくれると期待しています。無症候の感染者が存在する限り、感染者の発生を想定した緊張とバタバタは続くことでしょう。徹底した標準感染予防策の実践、責任感のある迅速な対応力、同時に臨機応変な柔軟さや個別性を包容する大らかさも兼ね備えた病院になっていくことを目指して、72年目の荒波に一緒に漕ぎ出していきましょう。