本日より、希望ヶ丘ホスピタルの4代目の病院長に就任することになりました。

当院は、昭和24年以来の長い歴史と同時に、厚い地域からの信頼を伝統とする県下有数の精神科病院であり、また歴代の病院長の高見孝志先生、修多羅正道先生、日笠完治先生という、人として大きく優れた器をお持ちの先輩方の後任ということもあり、果たして自分で良いのだろうかという戸惑いも大きくありましたが、引き受けたからには全力で責任を果たしていくつもりですので、職員の皆さんのご協力をどうぞ宜しくお願いします。

さて、現在の当院の状況は、院内や法人内では、私を含めて要職での世代交代が急速に進んでいる途中で、組織のまとまりや成熟度は十分とは言えない状況です。また、ご存じのように、超高齢化社会を迎え、精神科医療を含む我が国の社会保障制度全体の将来像は不透明で、当院を取り巻いている環境や未来も不安定といえるでしょう。つまり、病院を船に例えれば、希望ヶ丘という船には、新米の船長や不慣れな船員も乗り込んでいて、その船で行く先も定かではない荒れた海に出て行かなければならないのですから、当然この先は様々な困難の嵐に遭遇することが予想されます。

そこで今日は、現在私が思い描いている病院運営の方向性を紹介しようと思います。どのような状況になっても、この理念やビジョンを羅針盤として舵取りをしていくのだという、その羅針盤をみなさんに共有してもらい、それが、これからの荒れた海や嵐を、皆さんと共に力を合わせて乗り切っていく原動力になってくれればと願っています。

 

私が目指す病院の姿は、

「ユーザーにとってかかりたい病院であること」

「職員にとって働きたい病院であること」 の2本の柱に集約されます。

この2つは、時として相反し対立してしまうことも多いものですが、どちらも蔑ろにせずに頑張って両立させていくことで、「地域に必要とされる病院だから働きがいがある」「生き生きとした職員が多いから利用してみたい」といった、お互いの良い循環が生まれることを目指したいと思っています。では、この2本の柱を中心に考えていきましょう。

「かかりたい病院」の条件として、まず「地域のニーズに応えられる病院である」ということを真っ先に挙げるということに異論は無いと思います。そこでこの「ニーズ」をどうとらえていくのかという話からです。現在の我が国の精神科施策のキーワードが「病院から地域へ」というのは皆さんご存じでしょう。「病院から地域へ」と聞けば、入院期間を短くして患者さんを地域に帰していく活動のこと、という一面で捉えがちですが、それは同時に地域で生活している患者さんが圧倒的に多数派になっていくということ、そして病院の活動の軸足自体も徐々に地域へ移していくべきということでもあるのです。今日の時点でも、当院の外来にかかっている患者さんは津山市近辺に、入院患者数の約10倍の2~3千人いらっしゃいます。これからの精神科病院は、入院をさせておくための施設としてではなく、この、地域の生活者としての患者さん側のニーズに合わせた活動ができる存在になることが求められていくでしょう。

つまり、まず必要なのは、私たちの発想そのものを病院中心から地域中心へと変えていくことであるとも言えます。

図1

 

 

 

 

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具体的には、従来からの保健所活動などの各種嘱託医、学校や企業などでの精神保健活動への協力のみならず、地域からの新患・急患等の受診要請に応えていくことや、各種の医療・生活・介護の相談、デイケアや作業所と言ったリハビリの場の提供を、法人内各施設の連携を強めて更に充実させることは当然必要になります。それに加えて、生活の場へ赴いてのアウトリーチ型の支援活動を強化しつつ、インターネットや様々なイベントを通じて情報発信を活発に行い、病院自体を地域に開いていく必要もあるでしょう。その活動の中心に、新設の地域ケア支援センターがなってくれることを期待しています。

では、地域生活を中心に発想するということを、私たちが日常的に出会う場面を想定して考えてみます。例えば地域での困難ケースについて要請があった場合、外来レベルでは「どうやって連れてくるか、どうやって入院させるか」を最初に考えるのではなく、「そちらに行きましょうか?」「生活の場に留まるためにはどうすれば良いか?」をまず発想しましょう。仮に入院をしたとしても、入院の治療内容や入院期間が、地域生活の阻害要因にならぬように心がけなければいけません。また、入院においては、状態が落ち着いて病棟生活に支障がなくなることを目標とするのではなく、生活の場に戻るために必要なことに優先的に対応しましょう。場合によっては、病状が少々不安定であっても、生活の場の確保のために必要ならば、退院を優先させることもあり得るのです。そしてスティグマの問題です。私たちが患者さんの限界や地域の偏見を先回りしてしまって諦めずに、私たちが一度決めつけを捨てて、地域生活への可能性をもう一度考え直していくことも必要です。

図2

 

 

 

 

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ここからはより具体的に、「かかりたい病院」となるために、重点と考えている項目を挙げていきます。質の高いサービスの提供のために、診療体制の充実化を次のように考えています。

 

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ユーザーに安心と信頼を提供していきましょう。それは安全を保障し、きちんとコミュニケーションをとって、ユーザーの立場を守るということです。特に患者さんに接するときに「自分の身内ならば」と発想する意識付けを強調しておきたいと思います。(下図↓)

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次は「働きたい病院」を目指すための重点項目です。これらは、現在の当院において足りていない点を反省するところから出発して考えたものです。まず、働く人のやる気を奪わずに、応援していきたいと思います。そのためにまずは頑張っている人をきちんと評価する方法を考えます。評価基準で最も大切にするのは「ユーザーに親身であるか」「職務に真摯であるか」、つまり「親身と真摯」であるということを忘れないでください。

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職員をもっと大切にして、育てて、守っていきたいと思います。

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これらはマニフェストという程のものではないですが、私が実現可能と考えているものばかりです。この資料を徳風会報やホームページに残すことで、責任を持って実現のための努力をしていきたいと思います。ややナイーブなところもあったかもしれませんが、新米の船長や水夫でも、新米だからこそ決断して実行できることもあるでしょう。

当院が今まで以上に「かかりたい病院」「働きたい病院」になる、という目標の実現のために、改めて職員の皆さんの理解と協力をお願いして、本日の就任の挨拶としたいと思います。